明日釣る
星のない空だ、港はまだ暗い。早朝四時四十分。二隻の本部艇が夜間航行燈を点け湾口の定位置へ向かった。この二隻の間がＳＳＴビルフィッシュゲーム（和歌山県周参見港を基地とする近海トローリング釣り大会・カジキねらい）のスタートラインである。
五時。大会無線が各艇へゲーム開始を告げる。参加の大型クルージングボート七十四隻は、ゴウゴウとエンジン音を張り上げて湾口を飛び出た。我々のトトロ艇も負けじと南々東へ五マイルを一気に走る。トローリングポイントへ着いてルアー五本をセット。センターロット（釣り竿）のライン（道糸）はセンターリガー（ポール）へ、最も外側のロング二本は両舷アウトリガーの先端にあずける。艇速（トローリングスピード）は六ノット。ルアーが水しぶきをあげる。
一息ついて振り返ると、すさみ港の上空に雨雲がのしかかっていた。あの付近はスコールかもしれない。太陽があがるにつれ雲は薄れ虹がかかった。北東約十五マイルに潮岬。水温二十七．四度。黒潮だ。
以後、紀伊半島枯木灘海域一帯をトロールすること九時間。緊張のなかの退屈。ストップフィッシュは午後三時。釣果は、ゼロ・ゼロ・ゼロ（０・０・０、ファイトなし、ヒットなし、ランディングなしの意）。
無線は各艇からの釣果を告げる声で終日賑やかだった。友艇クイックはゼロ・ワン・ワン。カジキをヒットしたが惜しくも逃した。シイラは一尾リリースした。
この日、大会全体で四本ブルーマーリン（くろかわカジキ）があったと聞いた。大会は二日間。我々は明日釣ることにする。